胎児性胆汁酸との出会いに始まった胆汁酸研究

池川 繁男

株式会社 玄米酵素 顧問


 私の胆汁酸研究は、ニューヨークのロックフェラー大学での留学を終えて昭和56年に帰国し、創設間もない東日本学園大学(現北海道医療大学)の薬品分析化学研究室を主宰しておられた故 藤間貞彦先生(北海道医療大学名誉教授)に師事してからである。当時の研究室では、有機化学的手法を駆使した標品の合成とガスクロマトグラフ(GC)-質量分析計(MS)による胎児-新生児期における胆汁酸の生合成や臨床分析化学的研究を進めておられたが、筆者には米国での経験を活かしてエストラジオールとリトコール酸のイムノアッセイの開発が命じられた。後に、胎児性胆汁酸と呼称されるようになったタウロ1β-水酸化コール酸のイムノアッセイ法を確立し、乾燥濾紙血を用いる胆道閉鎖症の早期診断法として臨床に適用した。


 平成4年、教授就任間もない後藤順一先生(東北大学名誉教授)に招請されて東北大学に里帰りし、C27胆汁酸のβ酸化における24、25位水素脱離の立体化学に取り組んだ。悪戦苦闘の末、25S体ではanti-eliminationで、25R体ではsyn-eliminationで本反応が進行し、両異性体間で脱離機構の異なる原因としてペルオキシソーム画分における25位の酵素的異性 化を明示することができた。また、胆汁酸のアミノ酸抱合におけるCoAチオエステルの前駆体としてアシルアデニレートを提示し、これがタンパク質と共有結合付加体を生成することも示した。その一方で、尿中胆汁酸3-サルフェートと3-グルクロニドの動態解析を進めるうち、遊離型胆汁酸の24位カルボキシル基における優先的なグルクロン酸抱合を発見し、リトコール酸、ケノデオキシコール酸、及びデオキシコール酸がエステルグルクロニドとして排泄されることを明らかにした。


 平成12年、近畿大学薬学部に転出した。幸いにも私学助成の支援を受けて導入された最新鋭の液体クロマトグラフ-MSを利用する機会に恵まれ、リトコール酸のアシルアデニレートによるタンパク質共有結合付加体を対象とした臨床化学的研究へと展開を図るうち、肝における胆汁酸のグルタチオン抱合体への変換と胆汁排泄という新たな代謝経路を見出した。


 平成24年、定年退職によって近畿大学での胆汁酸研究に終止符を打ったが、30年来の友人である千葉仁志先生(北海道大学教授)から脂質研究への参画を呼びかけられ、重水素標識コレステリルエステルの合成に従事した。平成25年、ご縁があって「株式会社玄米酵素」の顧問を拝命し、北海道石狩郡当別町に立地する中央研究所に出向して機能性食品としての「玄米米糠麹」の研究・開発を命じられた。与えられた時間は多くはないが、これまでに培った胆汁酸に関する知識と経験が健康の維持・向上に役立つ機能性食品の開発に繋がればと念じている。