私の胆汁酸研究

黒木 祥司


 黒木祥司は昭和53年九州大学医学部を卒業し、中山文夫教授が主宰する九州大学医学部第一外科教室に入局、昭和55年から4年間、広島大学医学部総合薬学科薬効解析化学教室(穂下剛彦教授)に国内留学し、肝ステロイド12α水酸化酵素に関する研究を行い、昭和59年に医学博士号を取得した。同年から3年間米国留学(Beth Israel Medical Center, Prof. E. H. Mosbach)し、昭和62年に帰国後、昭和64年に九州大学医学部第一外科助手、平成9年には九州大学医学部第一外科講師となった。黒木はこの間一貫して胆汁酸生合成に関する研究を続け、博士論文となった肝ステロイド12α水酸化酵素に関する研究や、シーラカンス・マナティー等の新胆汁アルコールの同定・構造決定、ヒト胆汁中胆汁アルコールの同定、胆汁酸の7位にメチル基を導入した新胆石溶解剤の合成・代謝・胆石溶解に関する研究等、数多くの英文原著を発表したが、その中でも肝の胆汁酸合成予備能の評価法に関する研究が特徴的であった。


 胆汁酸生合成の第一段階はコレステロールの7α水酸化であるが、黒木はその代謝物の7αヒドロキシコレステロールの血清濃度を測定することにより、肝における胆汁酸合成能を評価できることを示した。従来胆汁酸合成量は、肝ミクロソームのコレステロール7α水酸化酵素活性を測定するか、同位体標識胆汁酸を投与し同位体希釈法により算出するか、あるいは糞便中胆汁酸を定量することにより測定されていたが、これらの方法は肝生検や放射性同位元素の投与を必要とし、一般臨床検査としては実用的ではなかった。黒木は胆石症患者の胆汁酸経口投与時や閉塞性黄疸患者の胆汁外瘻時等の臨床症例、さらに各種動物実験において、従来の酵素活性や胆汁酸分泌量と血清7αヒドロキシコレステロール濃度を測定し、血清濃度が肝酵素活性や胆汁酸合成量を良く反映することを詳細に示した。また慢性肝炎患者や肝硬変患者において血清7αヒドロキシコレステロール濃度が低下しており胆汁酸合成能が障害されていることや、コレスチラミン投与により胆汁酸合成を刺激した際の血清濃度上昇が見られず、肝の胆汁酸合成予備能が枯渇していることを示した。これら一連の研究により、黒木は血液分析により胆汁酸合成能から見た肝機能障害や肝予備能の評価が可能な事を示し、その業績により第5回ウルソ賞を受賞した。