胆汁酸の研究概略

新規胆汁酸の同定、標品の合成および分析法の開発、生合成経路の解明

黒澤 隆夫

北海道医療大学


 昭和51年より藤間先生が主催する北海道医療大学薬学部薬品分析化学講座に赴任した。当時はステロイド(エストロゲン)の合成化学を中心に研究を進めていたが、留学後の昭和57年より、藤間先生が日頃より目指していた薬学の分析化学を「薬学と臨床医療」とのつながりに利用しようということに感銘を受け、胆汁酸関係の研究を進めることとした。藤間先生は既 に牧野先生をはじめとする多くの臨床医との共同研究を進めていたが、臨床に全くなじみのなかった私は、有機合成の技術を利用して胆汁酸標品を合成することから研究をスタートさせることとした。以来、藤間先生の指導の下で胆汁酸の研究を行わせていただいき、その間に達成できた研究成果の概要について以下にご紹介させていただく。


 新規胆汁酸、不安定な胆汁酸や入手困難な胆汁酸の的確な定量分析法の開発には、先ず、新規胆汁酸の構造確認、次いで、同定と定量のための標品の合成が欠くことが出来ない。そこで、当時、藤間先生が進めていた胆汁酸分析法開発のために各種胆汁酸標品の合成から研究を手伝わせていただき、種々の不飽和胆汁酸や当研究室で既に合成されていた1β-水酸化胆汁酸や 6α-水酸化胆汁酸の効率的な化学合成法を開発することが出来た。次いで、これら新規胆汁酸生合成経路解明のためのツールとして、生合成中間体である各種 C27-胆汁酸と生合成酵素の立体特異性を解明するための立体異性体の合成を行った。これら、各種標品を用いて微量定量法を開発し、先天性肝胆道疾患(Zellweger症候群)患者の胆汁酸組成の解明、および胆汁酸生合成経路における立体化学を解明することが出来た。ここ数年は、胆汁酸の排泄機構解明に向けたトランスポーター関連の研究を進めてきた。