藤間貞彦先生の胆汁酸研究の概略と功績 ~藤間先生を偲んで~

黒澤 隆夫

北海道医療大学


 藤間貞彦先生は昭和30年4月~昭和51年3月まで北海道大学、昭和51年4月より~平成10年3月まで東日本学園大学(現北海道医療大学)薬学部において研究、教育に勤められました。北大時代には、キレート化学とステロイド配糖体や女性ホルモンの化学の理解による薬学―臨床医学の協力を中心として研究を進められました。北海道医療大学に赴任されてからは、北大の牧野先生(当時)との共同研究に端を発して、異常胆汁酸の同定と体内動態に関する研究を精力的に進められました。特に、胎児期に特有な胆汁酸(胎児性胆汁酸)の体内動態に精力を注がれ、GC-MSを駆使して、多くの胆汁酸の同定と微量定量法の開発を行い、小児胆汁酸領域において多くの新規の臨床学的知見を得られ、平成7年度日本薬学会学術貢献賞を受賞されております。しかしながら、まことに残念なことではありますが、本年3月に永眠されました。生前の藤間先生を偲んで、北海道医療大学在任時に遂行された代表的な胆汁酸関連の研究についてその概要を紹介させていただきます。


1. 生体内微量ステロイドの高性能分析法の開発と臨床化学への応用

 藤間先生の主宰された研究室におけるポリシー(新規化合物と標品の合成と構造解析、高性能の分析法の開発、臨床医学との研究協力)に則り、牧野先生との共同研究によるUDCAの胆石溶解作用について研究を開始することとしました。生体に安全なUDCAの重水素標識胆汁酸を合成して経口投与し、胆汁中に排泄される代謝産物をGC-MSにより分析し、その体内動態を明らかにしました。また、同様に牧野先生と共同で3β-hydroxy-5-cholenoic acidのGC-MSによる微量定量法を開発し、同時に3β,12α-dihydroxy-5-cholenoic acidの存在を見出し、種々の肝胆道疾患の病態解析について検討しました。


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2. 胎児―新生児期における胆汁酸の体内動態と先天性代謝異常

 薬学の特徴である有機合成、微量定量分析を利用し、胎児―新生児期の胆汁酸の微量定量法の開発に着手されました。本研究は入戸野先生(順天堂大学)、木村先生(久留米大学)らの協力のもとに臨床研究と密接な関連を意識して進められました。その結果、胎児―新生児期には、成人には認められない1β-、2β-、4β-、6α-、19-水酸化胆汁酸が主成分として存在することを明らかにし、それらを「胎児性胆汁酸」と名付けて提唱しました。これら胆汁酸の測定は、尿、血液のマススペクトルから、その構造を推定し、化学合成により確認、次いで合成品を標品として用いて信頼性の高いGC-MSによる微量定量法を開発するというコンセプトのもと行われ、14種の胎児性胆汁酸の化学構造の確認・同定を行いました。また、試料採取の困難性を鑑み、化学イオン化負イオン検出NICI-GC-MSを用いて、アトモル(10-18)オーダーの分析を可能としました。これら確立した分析法を用いて、胎児―新生児期の胆汁酸体内動態を検討し、胎児性胆汁酸の経時的変化、排泄機能などに関する様々な知見を得ています。さらに、胎児性胆汁酸の生理的意義や生合成経路の解明、および先天性肝胆道疾患における胎児性胆汁酸の動態と病態解明に向けた検討を行いました。


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